2017.9.5

『横瀬クリエイティビティークラス』がこの町にもたらしたもの|横瀬町役場 田端将伸

横瀬町役場 まち経営課
『横瀬クリエイティビティークラス』事務局
田端将伸 Masanobu TABATA

”たった一歩”が、横瀬町の”偉大な一歩”になるはず。

−まず、横瀬町の現状について教えてください。
埼玉県の北西部、秩父市の隣にある人口約8500人の小さな町です。主な産業は、観光・サービス業と、窯業と呼ばれるセメント関連。特に観光産業については池袋から電車で最短74分の距離にあり、好アクセス。横瀬駅と芦ヶ久保駅、そして『道の駅 果樹公園あしがくぼ』が地域の拠点となり、日帰りの観光客にも多く足を運んでいただいています。
しかし、ご多聞に漏れず、人口の減少と高齢者の増加に直面しています。典型的な地方自治体であることに変わりはありません。横瀬町はこれまでも他の地方自治体と同様、誠実に行政運営を推進してきたのですが、人口減少の歯止めはかからない状況です。
社会がめまぐるしく変化していくなかで、皮肉にも地方自治体の長所でもある計画行政の進め方が足かせとなってしまい、変化への対応スピードが追いついていません。「このままでは横瀬町の発展は見込めない」。それが、役場の職員たちの共通見解でした。
そのようなときに声を発したのが富田町長でした。「横並びが当たり前の地方自治体から脱却するためには、センセーショナルな取り組みはいらない。たとえ小さな一歩でも、頭ひとつでも抜け出すことができれば、大きな差を生むはずだ」と。
現在では、町民や事業者のポテンシャルと町外の人・モノ・情報をコラボレーションするための官民連携プラットフォーム 通称『よこらぼ』を始めたり、町の未来を担う子どもたちへの教育に注力したり、と小さな一歩を踏み出し始めました。

「何かが変わりそう」という衝動を抑えられなかった。

−そこで都内のクリエイターたちから『横瀬クリエイティビティークラス』の提案があったわけですね。
最初は冗談かと思いましたけどね(笑)。元々は主催者のひとりであるEXIT FILMの映像ディレクター 田村くんが秩父でキャンプをしているというので、差し入れを持って遊びに行ったことがきっかけなんです。そのときは一緒に焚き火を囲んで、酒を酌み交わして楽しい時間を過ごしたんですけど、後日「この間もてなしてもらったから、秩父のために何かをしたい」って連絡があって。
「いいねー!やろうやろう!」くらいの軽いノリで受け止めていたら、「今度横瀬町へいくので打ち合わせしましょう」「横瀬ってどんな課題を抱えているんですか?」って…マジなんですよね。
彼らの本気に触れて、僕らも火がつかないわけないじゃないですか。計画行政の文脈では最も大切だと言われている”効果”や”成果”は全く未知数でしたが、「何かが変わりそう」「彼らと一緒にやり遂げたい」というワクワクに駆られたのは今でも忘れられません。
その衝動に突き動かされるままに町長に考えをぶつけ…いや、提案しました。町長は僕の熱量に若干圧倒されていましたが、「地域の外から人や情報が新しく加わることで、対象者である子どもたちにとっても素晴らしい時間・刺激になる。町をあげて支援します」と意思決定してくれて。『横瀬クリエイティビティークラス』の開校が決まった瞬間でした。
 
−そして、2017年4月22日〜23日には『横瀬クリエイティビティークラス』の第一弾としてクリエイティブソンが開催されました。多くの子どもたちが参加していましたね。

あのときの子どもたちの目の輝きは印象的でしたね。最初は緊張していた様子でしたが、時間が経つにつれ、どんどんイキイキとした表情に変化していって。
きっとクリエイティブソンに参加するまで、彼らは目の前の授業や部活に必死になっていたんです。”今を生きている”というか。でも、クリエイティブソンでクリエイターの方たちの働き方を目の当たりにして、自身の未来について考えるようになったんじゃないか、と。「ここにいるクリエイターたちのように夢を掴みたい」。そういう気持ちが目の輝きに繋がったんだと思います。
参加した子どもの保護者からは「家に帰ってくるなりに将来について熱く語り始めたんですけど、一体何があったんですか?」って(笑)。数値化はできないけれど、彼らの表情は紛れもなく『横瀬クリエイティビティークラス』の大きな成果だと思っています。

分野の垣根を越えて、シナジーを。

-田端さん個人の想いも聞かせてください。田端さんが『横瀬クリエイティビティークラス』に参加する意味って何なんですか?
最初は勢いでした(笑)。でも、今は主催者として、そして当事者として関わるなかで、一番影響を受けているといっても過言ではないと思います。
これまでも色々な方に支えられながら働いてきましたが、『横瀬クリエイティビティークラス』に参加しているクリエイターのような人たちとの協業は初めて。全く別の分野の人たちとひとつの目標に向かって突き進んでいく毎日は本当に刺激的です。
そして、こういう体制や進め方って、今の横瀬町にとっても一番必要なことのような気がするんですよね。
行政だけではなく、民間だけではなく、町民だけではなく…そして役場内でも高齢者福祉だけではなく、児童福祉だけではなく、観光だけではなく、まちづくりだけではなく、教育だけではなく……分野の垣根を越えて、それぞれがリソースを提供し合って、シナジーを生んでいく。それが、真に必要とされる行政サービスを目指す土台になるんじゃないかと思っています。
何より、子どもたちがイキイキと夢や未来について語っている姿を見ちゃったら、このプロジェクトを止めることはできませんよね。『横瀬クリエイティビティークラス』はまだまだ始まったばかり。横瀬中学校でのクリエイティブ勉強会もあるし、クリエイティブソンで生まれたアイデアをカタチにする作業もまだまだこれからです。これからが勝負。
こういうプロジェクトは展開し続けていかないと縮小してしまうものなので、僕自身がオーナーシップを持って積極的にリードしていきたいと思います。そして、横瀬町の無限の可能性を引き出して、参加してくれている仲間たちと共有していきたいですね。
 
著者:田中 嘉人Huuuu Inc.

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